0℃では凍らない過冷却の不思議

「水は何℃で凍りますか。」突然こんな質問をされた時、何と答えますか?

多くの人は「0℃」と答えるでしょう。その通りです、何も間違ってはいません。小学校から現在に至るまでそのように学んできました。しかしながら、現実の自然界では、水が0℃以下になっても凍らないという現象が往々にして存在します。何故なのでしょうか。

ところで皆さんは「過冷却」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ほとんどの方は中学校や高校で学んだ物理あるいは化学の授業で聞いたことがあると思います。でも今、改めて思い返してみましょう。過冷却ってどんなものだったか覚えていますか。極端に言えば、過冷却とは「冷やされ過ぎている状態」のことです。そのままですね。

自然界において水が0℃以下になっても凍らずに液体状態を維持している時は、大抵この「過冷却」という現象が起こっていると考えていいと思います。

今回はこの過冷却現象の仕組みを考えていきたいと思います。


過冷却とは

まず過冷却とは何なのかについて考えてみましょう。過冷却は「本来、固体状態に変化する温度以下になっても、固体状態に変化せず、液体状態を維持している」ことを意味します。水の場合だと、0℃以下になっても氷に変化せず、液体状態を維持している状態のことです。この現象を温度変化のグラフで考えてみましょう。

左のグラフがいわゆる教科書的な温度変化のグラフです。水の温度が低下して0℃に到達した時点で水は氷に変化し始めます。この時、凝固熱と呼ばれる熱が発生することで、一時的に温度低下が止まり、0℃の状態をキープします。その後、全てが氷に変化した後に、再び温度が低下し始めます。

右のグラフでは過冷却現象が生じている場合の温度変化のグラフです。このグラフを見ていただくとわかるように0℃以下になっても氷に変化しない為、温度が低下し続けます。そしてある段階で過冷却状態が終了し、一気に氷に変化し始めます。このため、凝固熱による温度上昇が生じます。そして氷への変化が終了すると温度低下が再開されます。過冷却現象は、特に水をゆっくり静かな場所で凍らせた際に起こりやすいと考えられています。

以上が過冷却の有無による温度変化のお話でした。

過冷却現象は私達の身近にも頻繁に起こっています。水の入ったペットボトルを冷凍庫に入れて2、3時間経って取り出した時、まだ液体状態であるのに、衝撃を加えると一気に氷に変化するという現象を見たことがありますか。この実験は、学校の化学の実験で実際にやってみたり、サイエンスに関するテレビ番組で放送されていたりします。Youtubeに実験されている方がいらっしゃったので動画を掲載します。是非ご覧ください。

過冷却のメカニズム

次に「過冷却がなぜ生じるのか」について考えましょう。過冷却のメカニズムを考える上で必要になるのが氷核形成理論です。氷核形成理論については別記事で取り上げていますので一読ください。

そもそも水が氷に変化する際には氷核が必要になります。しかしながら、過冷却状態となった水は0℃以下でも氷核が存在せず、氷が成長できません。氷核を作るためには物理的なエネルギーが必要になります。特にゆっくり凍らせた場合、氷核を作るためのエネルギーが足りず、氷が成長しない状態になってしまうのです。

ところが、何かしらの衝撃が加わることによって氷核を作るためのエネルギーが供給され、瞬間的に氷が成長します。


この話のポイント

  1. 過冷却とは「本来、固体状態に変化する温度以下になっても、固体状態に変化せず、液体状態を維持している」ことである。
  2. 過冷却はゆっくり冷やした時に生じやすい現象であり、氷核を作るエネルギーが確保されなかった時に生じる現象である。
  3. 過冷却状態は強い衝撃などの物理的エネルギーを受け取った時に解除され、瞬間的に氷が成長する。

参考文献

第 12 章 水の相転移4 ~凝固点降下・過冷却~, http://e.sci.osaka-cu.ac.jp/yoshino/edu/water/chapter12.pdf


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